本研究では、バブル経済崩壊以降の長期不況によって日本の製造業、特に中小製造業がどのような影響を受けたのかという点に関して、東北地方における機械金属系製造業を対象とした調査を行った。調査研究により得られた主な知見は以下の通りである。(1)東北地方の製造業は東京圏の分工場として量産機能に特化しながら発展してきたが、それは性別分業に基づいた柔軟性によって担保されていた。バブル経済崩壊後の製造業の縮小過程においては、そのシステム上の柔軟性が発揮され、欧米諸国のような高失業社会化は当面回避されているが、他方、その性別分業を支える構造自体が緩慢にではあるが着実に変化しつつあり、高失業率が出現するリスクが高まっていることが確認された。また、東京圏の工場を母工場とする系列的な下請関係にある分工場体制が揺らいできており、自律的な企業間関係の構築が模索されている。(2)地域産業集積の活性化に関して、中小企業間のネットワーキングの有効性がしばしば指摘されてきたものの、ネットワーク形成が政策的に誘導可能であるかどうかという問題がある。自生的なネットワークが存在する岩手県北上・花巻地域では、企業間の連携を媒介するコーディネーターがマッチング機能・信頼補完機能・翻訳機能・事業家機能といった重要な役割を果たすことによって、組織間学習が促進されていることが観察された。他方、そのような自生的なネットワークが顕著でない福島県郡山地域では、公的技術機関のコミットメントがネットワーキングを促し、地域レベルでの組織間学習の触媒となっていることが確認された。
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