本研究を通じて明らかにされた事実と今後の研究にとっての含意について概要を述べる。 まず、日本とドイツの自動車・電機メーカーの企業環境の特徴は、ひと言で言って、グローバル化を軸に企業組織の再編成や従業員管理の目標や手法が大きく変化している只中にあることである。日本は、従業員の雇用保障と引き換えに、最大限の人的資源の活用に成功してきた点では、ドイツの企業における労使共同決定体制化の従業員の地位保障と類似した傾向を持ってきた。しかし、ドイツの自動車メーカーを中心に、国際市場競争の激化において、従来型の多層的強固な経営組織に変えて、フレキシブルな組織のフラット化は、職場における正規雇用の減少と種々の非正規雇用の拡大を結果した。その点では、日本の自動車・電機企業における多様な非正規雇用やアウトソーシングなど生産の量的変動と製品ラインの変更に対応する方法は、ドイツ企業においても導入されるようになっている。 他方、ドイツでは家電産業等電機メーカーは弱小であり、日本の調査で明らかになった。アウトソーシングの典型例であるEMS(組み立て外部委託)は普及していないが、一部の日系電機メーカーでは、導入が見られた。自動車企業においては、雇用管理の多様化と並んで国外への多面的な事業展開という要素が付加されている。日本における家電メーカーの中国等東アジアへの事業展開は、いわば国際水辺分業の名のもとに今後も進むと思われるが、「東南アジア価格」との直接的競争の国内雇用への影響、雇用の多様化によるコア技術やノウハウの流出など、今後の人材育成研究にとって重要な知見を得ることができた。
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