日本における労働福祉政策の評価基準として、本研究では「選択肢の多様化」着目し、各個人がそのライフコースの進展に応じてさまざまな意思決定に直面するとき、どの程度多様な選択肢が用意されるのかを最も重要な基準とした。とりわけ、フランスとの比較で家族における、世代間関係とジェンダー関係の相互関係について資料およびインタビューによって調査を行い、日仏それぞれの国での特徴を持ちながら、今後の労働福祉政策のあり方を規定していくことを確認した。それらの分析をもとに、今後の労働福祉政策においては、ミクロとマクロの総合的な視点、すなわち、家族、企業、政府という3つの主体が、それぞれに特徴のある市場構造、人口構造を通じて、有機的に役割分担をする必要があるというインプリケーションを導くに至った。 さらに、福祉や訓練サービスの供給主体として、公的部門が持っているカバレッジの広さと、民間企業のイニシアティブによる効率性の向上とをどのようにバランスよく利用するかについて、その望ましいあり方の研究を行った。日本における福祉や訓練サービスを市場メカニズムを有効に活用して提供するためには、規制改革において家族や個人の選択に対する配慮が必要であると同時に、供給主体そのものにおいても、企業部門の経営資源、人的資源をより有効に活用する仕組みを作り上げる必要があるという提言に至った。 雇用・福祉のあり方が、家族の関係を通じて個人を自立させているのか、逆に依存関係が強まっているのかについては、今後急速に高齢者比率が増大する日本はもちろん、すでに成熟した多くのヨーロッパ諸国においても重要な関心事である。今後はさらにストラスブールだけでなくヨーロッパ各国の研究者とのネットワークを基盤に、学際的・実証的な国際比較研究を行い、雇用・福祉の諸問題を解決する新たな手がかりを求めたい。
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