本研究の目的は、電力、電気通信、都市ガス等の公益事業にみられるネットワーク設備の共同利用に関する経済分析を提供することである。研究成果は、二つの論文にまとめられている。 第1の論文は、ネットワーク設備所有者の所有形態について論じている。主たる論点は、「ネットワーク設備所有者は他の競争的生産部門とは独立した存在であるべきか否か」である。ネットワーク設備所有者が他の競争的生産部門と独立している場合を「垂直分離」ケース、独立していない場合を「垂直統合」ケースを呼び、垂直分離ケースと垂直統合ケースの経済厚生比較を行った。主要な結論は、次のようである。第1に、接続料金の水準と参入埋没費用の大小、参入阻止行動、および垂直構造の関係について結論を得た。接続料金が接続費用より低く(高く)、かつ参入埋没費用が高い(低い)ときには、垂直分離ケースにおける既存事業者の参入阻止誘因が垂直統合ケースにおける場合よりも強い(弱い)ことがわかった。第2に、垂直分離ケースのほうが低い公益事業財価格を達成することができるという長所を持つ反面、ネットワーク設備効率的運用のための設備投資誘因が弱いという短所を持つこともわかった。(垂直統合ケースでは、全くその逆の効果が働く。) 第2の論文は、市場自由化・競争導入と企業の設備投資行動の関係を考察している。そこでは、実物オプション・アプローチ(real option approach)を用いて、市場自由化が各事業体に不確実性をもたらした結果、設備投資誘因を弱めたことを説明した。また、設備投資誘因を損なわないための政策的方法についても論じた。
|