本研究の目的は、東アジアの地域経済統合による複眼的地域経済圏の形成を分析枠組みとして、EUの共通税制をモデルに税制の調和が地域経済統合に果たす役割を検証し、とくにASEANの地域経済統合に最適な税制の調和の政策プログラムを解明することである。第1の課題は、ASEAN自由貿易圏(AFTA)の形成を目指す域内共通関税化を分析して、地域経済統合への効果を評価し課題を措定することである。第2の課題は、ASEANの中核であるシンガポールとマレーシアとインドネシアの3国の経済発展および経済構造と租税制度・政策を検討して、地域経済統合に最適な税制の調和の政策プログラムを明らかにすることである。 平成12年度の研究成果として以下のことを明らかにすることができた。 1.危機から回復過程に入ったASEANでは、世界銀行の報告の指摘する新たな社会契約の形成が持続的経済成長のための中期課題の1つとなっているが、中心となる公共経営において税制改革が看過されている。回復の遅れているインドネシアでは、民主化と地方分権化と透明性の下での構造的予算赤字の克服には財政整理が必要であり、長期的・包括的行財政改革が課題となっている。 2.ASEANは危機後も、AFTA実現の最終期限を原締結国について2002年に前倒し、貿易自由化方針を推進している。アジア・太平洋地域での二国間自由貿易協定の動きを基盤に、ASEANと日本・韓国・中国を包含する東アジア自由貿易圏構想が提案された。この構想では、域内関税撤廃が目標なるが、消費課税と所得課税の調和への包括プログラムの策定が、課題となっている。 3.開発途上国での多管轄間租税配分について、R.バードは、先進国財政を基礎とするマスグレーブの配分原則を批判し、下位政府を重視し多様なVAT形態に着目したモデルを提案している。多段階政府や連邦政府での二重VATの国境管理と税関なしの国境税調整の方法としては、延納制度や清算制度よりも下位VATである補償VAT(CVAT)と統合VAT(VIVAT)が有力な提案である。また、連邦国家インドでの消費課税の調和の1990年代の進展は、EUともにインドのVATの調和形態と経験がASEANでの消費課税の調和モデルとして適用可能であることを示している。
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