本研究の目的は、アジアの複眼的地域経済圏の形成を分析枠組みとして、EUの共通税制をモデルに税制の調和が地域経済統合に果たす役割を検証し、ASEANの地域経済統合に最適な税制の調和の政策プログラムを解明することである。第1の課題は、ASEAN自由貿易圏(AFTA)の形成を目指す域内共通関税化を分析して、地域経済統合への効果を評価し課題を措定することである。第2は、ASEANの中核であるシンガポールとマレーシアとインドネシアの3国の経済発展および経済構造と租税制度・政策を検討して、地域経済統合に最適な税制の調和の政策プログラムを明らかにすることである。 平成13年度の研究成果として、以下のことを明らかにできた。 (1)地域経済統合の究極形態として連邦制度を想定すると、政府間財政調整制度は不可欠な要素である。財源移転制度はアジア諸国では未発展な領域であるが、連邦国家インドには、独立以来50年の貴重な経験がある。2000-01〜2004-05年度の州税収分与に関する第11次財政委員会の勧告は、税収分与と補助金の包括的移転パッケージの提案と財政規律の強化などで評価できる。しかし、財源移転チャンネルの統合、垂直的・水平的配分の適切なデザイン、運用における政府間協議と政策協調に関する制度が課題である。 (2)インドネシアでは、財政収入の石油税収依存の低減を主目的に1983〜86年に税制改革が実行された。現行税制の基本となったVATと新所得税は税収構造を転換したが、税務行政、資源配分と所得再分配に関しては不徹底であり、税務行政の改善が重要な課題であった。改革後、インドネシア経済は高経済成長軌道に入ったが、1997年の経済危機により中央政府は財政赤字に転落し、現行税制の抜本的改革が緊急の課題である。 (3)アジア経済危機は制度的脆弱性を喫緊の課題とした。ASEANでの経済統合における税制の調和に関して、インドネシアの税制改革は不可欠な課題であり、地方分権化での課題である財源移転制度の構築では、実行可能性の点でインドの移転制度は貴重な先例となる。
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