本研究の目的は、アジアの複眼的地域経済圏の形成を分析枠組みとして、EUの共通税制をモデルに税制の調和が地域経済統合に果たす役割を検証し、ASEANの地域経済統合に最適な税制の調和の政策プログラムを解明することである。 平成11年度から13年度までの研究成果として、以下のことを明らかにできた。 (1)地域経済統合での税制の調和の理論的基礎となる中央・中間・地方の3政府レベル間の租税配分について、Musgrave夫妻から最近のV.Tanziなどの研究成果の検討から、EUを統合モデルとする場合の適切な租税配分モデルが構成可能である。 (2)開発途上国での多管轄間租税配分での消費課税の調和に関して、M.KeenやR.BirdなどのVATの多様な形態に関する研究と連邦国家インドでの経験の検討から、ASEANでの消費課税の調和に適用可能なVATモデルを明らかにできた。 (3)地域統合の究極形態としての連邦制度での政府間財政調整制度について、長い経験にある連邦国家インドでの財源移転制度の展開の検討から、適切な制度デザインが可能である。 (4)ASEANでは、AFTA達成の前倒しが決定され、シンガポールを中心に二国間自由貿易協定締結の動きが顕著で、東アジア自由貿易圏構想も提案されている。アジアの地域経済統合では、経済危機後の回復過程での持続的経済成長には制度的脆弱性を克服する行財政改革が重要課題であり、なかでも消費・所得課税の改革プログラムの策定が喫緊の政策課題である。 (5)経済危機の最も深刻な影響を受けたインドネシアの現行税制は、1980年代の税制改革に基づくが、危機後に財政赤字に直面しており、抜本的税制改革が不可欠な財政政策課題である。
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