戦後西ドイツ資本主義経済のダイナミズムを根底において支えてきた基本的な、相互に対抗する二つの選択肢、すなわち供給指向的な「競争政策」と需要指向的な「総合的誘導政策」の生成と展開に関する本研究テーマにおける研究課題群のうち、本年度は、次の3点を重点的に研究した。(1)大恐慌のインパクトのもとに経済的自由主義の経済政策思想は根本的な転換を遂げていくが、この過程を、当時主として英語圏やイタリア語圏において発展しつつあった価格理論・費用理論などのミクロ経済学的研究成果のドイツヘの導入との関わりで考察した。(2)ナチス期にライヒ経済相が設立した「ドイツ法律アカデミー」(Akademie fur Deutsches Recht)において「国民経済の研究」を担当した「グループIV」の研究成果を中心に分析し、完全競争論と経済政策との関連から導出された競争理論や競争経済の補完としての社会国家論について考察した。(3)かかる経済政策の選択肢の起源を、大恐慌との関連だけでなく、第一次大戦期に原型が生成した国家・労働・資本の関係に対する、また20年代の国家干渉政策に対する経済的自由主義者の考察との関連で分析した。明らかになった点は以下の通りである。(1)1930年代における大恐慌とファシズムの台頭が自由主義経済思想の本質的旋回にとって有した歴史的意義。(2)第一次大戦を契機に成立した多元主義的コーポラティズムに対するネオリベラリズムの立場。(3)カルテル化した市場を競争状態へと転換させ、「人為的均衡」へと誘導するための経済政策の立場とその政策の内容。
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