戦後西ドイツの経済政策の選択肢の起源とその展開に関する研究計画の総括として、研究成果を次のような構成で体系化した。1)1920年代ドイツにおける経済政策思想の革新。1920年代の経済政策論争-「カッセル論争」-を取り上げ、戦後ヨーロッパ経済の停滞の根因を労働組合と社会国家の発展による投資の制約に求め、労働の流動化促進と民間投資を制約する社会政策の制限を主張するカッセルに対して、カルテルにより機能麻痺した市場に代わって国家による景気政策(生産的インフレーション)と産業政策を通じて失業問題と産業構造の展開を図ることの有効性を説いたレーデラーら社会民主主義者の経済政策思想の革新の諸相を解明した。2)1930年代における自由主義経済政策思想の革新。大恐慌とファシズムの台頭を契機に始まった経済的自由主義の政策思想の革新の内容を、「リベラルな国家干渉」を通じた多元主義の解体と不完全競争市場に均衡をもたらすための競争政策(かのようにの経済政策)の展開のなかに求め、かかる革新を主導したベッケラート、シュタッケルベルク、ミクシュ、オイケン、リュストウら大恐慌期からナチス期30年代のエコノミストの営為に光をあてた。3)ドイツ社会史的統合論の政策的含意と欧州統合とヨーロッパ統合とグローバリゼーションの文脈の中で、社会史的統合の視点が有する政策的意義に注目した上で、欧州統合過程においても経済政策の選択肢の問題が、ポジティヴな統合とネガティヴな統合という形で現出することを明らかにした。4)グローバリゼーションの衝撃とドイツにおける選択肢。以上において確立された経済政策の選択肢の観点から、グローバリゼーションへの対応において独自な政策的選択肢を提起したラフォンテーヌの構想の意義に接近し、産業立地競争政策批判、目標相場圏とトービン税の構想、国際協調による経済政策・社会政策論の革新的な内容を明らかにした。
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