本年度は、第一に太平洋戦争開戦前後の物資輸送力の確保が、物資動員計画・生産力拡充計画など総動員諸計画立案の根幹となっていたことを、資料集の編纂及びその解説論文(「11.研究発表」参照)を通じて明らかにした。特に1939年の欧州大戦勃発後、アジア市場からの欧米船舶の引き揚げによって海上輸送力は決定的に不足し、原油・ボーキサイト・鉄鉱石・石炭・塩など日本が海外に依存した重要資源の輸送力計画が、鉄鋼、軽金属、航空機・造船等機械工業、化学工業の生産計画立案に先だって確保される必要があったこと、従って41年夏の開戦準備による民間船舶微傭に始まる海運力の破綻がわが国の戦時経済の崩壊につながったことを示した。 第二に、不足する輸送力の運用のため海運業界で進められた統制と企業再編と造船業に対する徹底的な資源動員がどのように展開したかを明らかにした(「11.研究発表」参照)。この中でまず37年5月の海運政策委員会、7月の海運自治連盟以来、欧州大戦勃発、太平洋戦争と大量船舶微傭などの段階を経て、国家管理による船舶共同運航(船舶運営会方式)が定着したことを明らかにし、そして日中戦争期に一旦重点化から外れた造船業に関しては、40年後半以降徹底的な資源動員が図られ、大型建造設備の建設、厚板鋼板・鋼管の大増産が始まったこと、海運造船業界の混乱を避けるため戦時標準船への建造切り替えに手間取ったこと、43年の大量建造が機械金属工業の大規模な動員の成果であるとともに粗製濫造であったことなどを明らかにした。 本研究は、戦時の物流統制問題に関する一次資料の収集整理と分析を目的にしていたが、本年度末には新たに交易営団・食糧営団等の戦時配給統制機関の資料を入手し、その整理に着手した。
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