研究概要 |
今年度は,昨年度に続き,1970年代から80年代初期のライオン油脂の流通戦略についての事例研究を進展させるとともに,本年度の申請書の計画でも記したように,1970代の各地方の商業圏に関するデータの収集と,代表的な各地方の卸店への聞き取り調査や史料収集を実施した。本年度の研究によって明らかにされた概要は,次の通りである。 まず第1に,ライオン油脂の事例研究では,昨年度に明らかにされた事実過程をより掘り下げて実証的に検討した。その結果,共同配送センターによる「都市型」構想の背景には物流チャネルの重複や交錯輸送,拠点卸店を配送の主軸とする「地方型」ではメーカーと大卸店とのチャネルの長さ,などがそれぞれ問題とされた。「都市型」では,当初,効率の悪い配送エリア設定となるなど出鼻をくじかれることもあったが,帳合整理の面では所期の成果を上げるなどの実績もみられた。「地方型」では,販売の予測と現実のズレに悩まされ,配車計画や積載品種の度重なる変更に苦慮した。また保管パターンと輸送パターンの不整合のために,積み替え作業の負担も軽減されなかった。それでも,システムの改善と,普及を促進する取引制度の導入に努め,最終的には20の拠点による「地方型」ネットワークが構築されるにいたった。 次に,各地の商業圏のデータについてであるが,収集と検討の努力にもかかわらず,結局,メーカー側の資料を客観的に証拠だてて,体系化するにはいたらなかった。 第3に,卸店の調査については,上述のライオン油脂およびライオン歯磨き関係の卸店の調査を実施した結果,両社間の商流・物流の違い,メーカー戦略の受容の度合いについての地域差・商圏差を確認することができた。これによって,上述の物流戦略の限界の要因も,かなり明快にされたといえる。
|