本年度は、3年度に及ぶ研究計画の一環として、クリントン政権下における最も重要な補助金改革である1996年個人責任・勤労機会法(福祉改革法と略す)について研究した。 福祉改革法は、1935年社会保障法以来の伝統をもつAFDCに終止符を打ち、それに代えて「貧困家庭一時援助」(TANF)と呼ばれるブロック補助金プログラムを設けたものである。TANFにおいては、AFDCに較べて、(1)個人に対するエンタイトルメントを否定している、(2)就労に対する要求が厳格になったことが特徴として指摘しうるがで、補助金改革の視点からは、州の裁量が格段に強くなったことが重要である。 この福祉改革の一般的背景としては、AFDC受給者数の増大、公的扶助支出の増大、財政赤字削減圧力があったが、補助金制度改革という観点から無視できないことは、この時期すでに公的扶助政策についての変化がウェイバー獲得プロセスを通じて(1988年家族援助計画法がプロセスを促進した)各州レベルで生じつつあったということである。 福祉受給率の低下に見られるように、就労促進を目的とした改革は今のところ成功しているように見えるが、最近の景気後退によって失業率が上昇し、それに伴い福祉受給者数が上昇せざるを得なくなったとき、この福祉改革の真価が問われるであろう。というのは、不況によって州財政が逼迫するようになると、TANFが定額のブロック補助金であることに起因する潤沢な追加財源が可能としている、児童ケア、雇用助成金、職業訓練のようなサービスの継続が今後も可能かどうかは疑問であるからである。
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