三菱電機の対米輸出マーケティングの特徴について分析した。三菱電機は日立、東芝と並び日本を代表する戦前からの総合電機メーカーである。三菱電機の対米輸出マーケティングは、松下電器やソニー、三洋電機、東芝など日本の代表的な家電メーカーと対比して、次の2点の特徴がある。1)対米輸出に際し、三菱電機は製品の販売を三菱商事に全面的に依存した。これは日本の多くの家電メーカーの自社販売組織による参入とは異なる特異な様式であった。しかし、所期の成果を出すことが出来なかったため、再度三菱電機自社の販売組織を構築し1974年に他社より大幅に遅れて参入した。2)アメリカの顧客上層15%にターゲットを絞り、高品質、高価格、セレクティブなチャネルを基本戦略を掲げて参入した。いわゆる「ニッチ戦略」である。プロジェクション・テレビに代表されるように一定の成果を上げることが出来たが、ニッチ戦略はグローバル競争時代には長期に競争優位は持続することが困難となり、三菱電機は1990年代のグローバル・マーケティング時代にはいり、アメリカから全面撤退を余儀なくされた。 三菱電機の撤退を余儀なくさせた根拠が、すでに三菱電機の参入の時期に形成されていた。第1の根拠は、三菱電機は戦前から優れた技術をもつ企業であるが、販売に関する経験のノウハウの蓄積が少ない。とりわけ、家電製品のように不特定多数を対象とするビジネスの経験の蓄積が乏しく、その販売を三菱商事任せにしたため、マーケティング、とりわけ国際マーケティングのノウハウの蓄積に遅れをとったことである。第2の根拠は、三菱電機は不特定多数の顧客を対象を相手とする家電製品のビジネス中心としている松下電器やソニーとは対照的に、特定の顧客を対象とする重電重視のビジネスに重点をおいているので、マス・プロダクションに対する、マス・マーケティングの体制づくりに全社を挙げた取り組みができなかった。
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