本研究は戦後の日本の民生用電子メーカーの対米輸出マーケティングについての研究である。本研究では日本の代表的な家電メーカー松下電器産業、ソニー、シャープ、三洋電機、東芝、日立、三菱電機を対象にそれぞれの対米輸出マーケティングの特徴を明らかにすると同時にこれら日本企業の共通した特徴を明らかにした。後発メーカー日本企業は先発メーカーであるアメリカ企業からテレビやテープレコーダーに関する特許権の譲渡によって大量生産体制を確立し、高品質と低コストの製品を掲げ、アメリカ市場でマス・マーケティングの展開に成功した。マス・マーケティングを全面的に掲げた家電総合メーカーである松下電器とAV専門メーカーであるソニーはアメリカへの参入が早く、参入当初から自社ブランドを中心としたフルライン戦略によってアメリカの全ての業態のチャネルに商品を乗せることによって競争優位を確立した。三洋電機やシャープさらには東芝はアメリカのRCAやシアーズ&ローバック、J. C. ペニーなどとの相手先ブランド(OEM)戦略を優先することによって、マス・プロダクションによるコストダウンと製造技術のみならずデザインなどについて多く学習する機会を得ることによって、急速なキャッチアップを遂げた。重電を中心とする三菱電機は三菱商事と共同でアメリカ全土を対象としたマス・マーケティング戦略による参入を試みたが、所期の目的を果たすことが出来なかった。アメリカの高所得層をターゲットに高品質、高価格、セレクティブなチャネルというニッチ戦略を掲げ、三菱電機単独で再度参入を試み、一定の成果を得ることが出来た。しかしながら、1990年代に入りグローバル競争のなかでニッチ戦略を持続することが出来ず、アメリカ市場から撤退を余儀なくされた。
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