研究概要 |
本研究の課題は,公的供給をも含めた鉄道産業に対するいわゆる公的規制政策の再構築に焦点を当て,その実態と政策体系をより深いレベルで考察することにあった。鉄道サービスの供給において「民」の役割をより重要視するような形での改革は世界的にも交通政策分野の重要なトレンドとなっているが,各国で実施に移されたないし検討されている諸改革の長所・短所,適合条件に関する研究蓄積はまったく不足しており,本研究はこれを明らかにするための基礎的作業と位置づけることができる。そのために,これまでの理論的・政策的議論の整理を試みるとともに,「民間供給」に関して先駆的ともいえるわが国のケースについていくつかの側面から分析を行った。 本研究の実績としては,1999年度に水谷が日本における鉄道改革についてまとめた論文をハノイで開催された国際会議で,2000年度に正司がわが国私鉄の多角化戦略に関する論文を日本交通学会で報告したことをはじめ,数編の論文をその成果として公表することができた。また,2001年春に正司はその成果の一部も収録した図書『都市公共交通政策』を刊行する。より具体的に本研究からの発見事実の例を示すならば,より合理的組織行動が可能になるためには行動原理として収益性を正面に据えることが重要で,そのために民営化をはじめとする民間供給が重要になり,その実現に対しては「政府の失敗」を意識しながら供給体制の分割の議論を深める必要性を明らかにしたことなどがあげられる。われわれが本研究からの得た結論はいずれも興味深く,今回の研究プロジェクトの時限が終了した後もさらに研究を精力的に進めることで,より包括的な理論および政策提言として確立を図る必要があると考えている。 その具体的第一歩として,現在われわれは,インフラ保有会社が鉄道運送(営業)を行っているというわが国のみならず世界的にも例がない神戸高速鉄道をケースとして取り上げ,そのパフォーマンスと政策含意を明らかにする論文を共同執筆中であり,2001年7月にソウルで開催される8thWorld Conference on Transportation Reseacrh(第8回世界交通学会)で報告する予定である。
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