研究概要 |
本研究の課題は,公的供給をも含めた鉄道産業に対するいわゆる公的規制政策の再構築に焦点を当て,その実態と政策体系をより深いレベルで考察することにあった。鉄道サービスの供給において「民」の役割をより重要視するような形での改革は世界的にも交通政策分野の重要なトレンドとなっているが,各国で実施に移されたないし検討されている諸改革の長所・短所,適合条件に関する研究蓄積は世界的にも不足しており,本研究はこれを明らかにするための基礎的作業と位置づけることができる。そのために,これまでの理論的・政策的議論の整理を試みるとともに,「民間供給」に関して先駆的ともいえるわが国のケースについていくつかの側面から分析を行った。 本研究プロジェクトでは,まず交通事業さらには公益事業一般における公的規制とサービス供給をめぐる理論的および政策論的議論,さらにその内部効率性に関する先行的実証研究結果の整理を行った。その作業を通じて,公益事業の民営化の論理とその成果,公共セクターに比しての民間供給の効率性の高さ,それを活かすための組織的,制度的対応の取り組みについて有意義な知見が得られた。続いて,わが国の都市型鉄道をケースとして取り上げ,民間セクターがサービス供給を行う場合の規制製作(公的枠組み整備)についてこれを批判的に検討するとともに,典型的民間供給主体である私鉄が,一体どのような行動をとっているのかについても検討を行った。そして民間供給の有効性を確認するとともに,その活用に対しては「政府の失敗」を意識しながら供給体制の分割の議論を深める必要性を明らかにした。 われわれが本研究プロジェクトを通じて得られた知見はいずれも興味深く,今回のプロジェクトの時限が終了した後もさらに研究を精力的に進めることで,より包括的な理論構築および政策提言への貢献を図る所存である。その第1歩として,インフラ保有会社が鉄道運送(営業)を行っているという特異な形の上下分離を行っている神戸高速鉄道をケースとして取り上げ,その一般的上下分離に比してのその有効性と政策含意を明らかにする論文を共同執筆中である。
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