技術におけるイノベーションは、1)人の資質、2)組織・環境、3)時代・タイミングの3つの要因が相互に複雑に関連して創生される。従来、この領域に関する研究は、イノベーションの発端がイノベーターの資質に大きく依存しているとの事実にも係わらず、組織や環境に関しては人の集団からなる「技術開発組織論」として、また時代やタイミングに関しては個々のイノベーションの集合としての「技術史」としてのマクロ的な立場の研究が行われてきた。その理由はイノベーターの資質(パーソナリティ)に関する領域は対象が極めてミクロで個別的な個人のメンタリティに係わること、その研究の具体的な方法論の困難性にあったと思われる。本年度は、その具体的な方法論として「心理分析手法および解析手法の検討とその妥当性の評価」を行った。その内容は次の通りである。 パーソナリティを客観的に理解するための手法として、交流分析(Transaction Analysis)を組み入れた質問表による人格テスト「TPI分析法」を取り上げた。この分析に用いる質問表は過去の日本人被験者の膨大な実績をもとに作られ、その妥当性が高く評価されているものである。その適応性の判断を深めるために、日本人学生の他、日本語をよく理解する外国人留学生にTPI分析を実施した。その結果、日本人に対しては従来の結果の通り精度の高いものであったが、外国人に対しては必ずしも精度が高いとは言えない恐れがあるとの結論に到った。理由として、日本人に最適に作られた「TPI分析法」であっても、個々の質問および回答はそれぞれの民族・宗教・国民性・習慣・風土と密接に結びついており、外国人の場合は日本人と異なる解釈や回答がなされると考えられる。
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