今年度は5カ国における企業概念の歴史的、経済・社会的の調査を完了し、日本・ドイツ・フランスにおけるアメリカ・イギリスの株主利益中心の企業概念を巡る論争に関して研究した。さらに今年度は7月と9月にアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの企業経営者、大学研究者などを面接し、それぞれの国における企業概念に関する争点の実態を聴取した。ドイツ、フランスにおける論争は、株主利益中心の企業概念への賛成派、反対派、折衷派に分類される。両国においては90年代半ば頃よりこれを巡る論争が始まったが、現時点では最初の衝撃を克服し、両国の経済的、社会的、歴史的特質に則した企業概念でもアメリカ・イギリスの企業概念を有する企業と十分に競争できるし、またその実績もあることが理解された。同時にアメリカ、イギリスにおいては株主利益中心への批判が根強く存在し、社会的合意を形成していないこと、大部分の経営者自身がそれを実践していないし、敵対的企業買収への多様な対策に見られるように、株主利益をも尊重していないことを指摘した。以上により、アメリカの株主利益中心主義はアメリカでさへ「標準」となっているかさえ疑わしいことにより、この株主利益中心の企業概念が世界標準の資格要件に欠くと結論づけた。この結果は別項に記した平成12年9月10日開催の日本経営学会年次大会において「企業統治の世界標準-アメリカモデルと日欧経営」として報告し、多大の反響を得た。
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