研究概要 |
企業概念は企業統治の基本である.この研究は対象5カ国の経路依存性通じてそれぞれの企業概念の形成要因を明らかにした.英米と日独仏の根本的相違は前者が株主利益を中心とする一元的企業概念であり,後者が会社それ自体または会社のすべての主要利害関係者の利害を考慮する多元的企業概念にある.前者は英国の早期の株式会社制度の発達,産業革命と植民地による国富と富裕層の増大,それに伴う余剰資金の運用制度としての証券市場の発達などが株主利益中心主義を形成した.米国においてもこのような企業概念は既に1919年に判例として確定し,英国と同様に証券市場が発達した.これに対して,日独仏においては英米のような個人の資本蓄積は低く,証券市場の発達は遅れ,株主利益中心主義が確立する契機が弱かった.また三国とも後発国として国家主導の工業化が促進され,企業は私的利益追求の手段としてよりは国益に貢献する手段として考えられた.この結果企業は株主の私的利益追求の手段としてではなく,企業それ自体の存続と繁栄を確実にすべきと考えられた.三国における多元的企業概念は90代アメリカの株主利益中心主義により大きな影響を受けた.しかしアメリカにおける株主利益中心主義は経営者自身もそれを実践している者は少数であり,95%の国民からは支持されていなく,経営成果も日独仏と比較して必ずしも高いとは言えない.2001年10月表面化したエンロンその他の破綻はアメリカの株主利益中心主義の限界を示すこととなった.結論として各国の企業概念にはそれぞれ利点と限界があり,これらは相互に影響しあいながら共存する.この視点から報告書では日独仏がアメリカ型企業概念から学ぶべき点を明らかにした.
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