本年度の調査では、非営利組織である高齢者ケア施設のマネジメントを、理論的かつ実践的な観点から考察するために、まず施設運営の現状ならびにその問題点を把握することに力点をおいて調査した。調査は、全国5ヵ所の施設を対象に行われた。施設運営理念→経営方針・処遇方針一経営実践・処遇実践に至るプロセスを視野に入れながら、個々の施設の経営方針・処遇方針に基づいて実際に現場でどのような経営・処遇が実践されているかが調査された。本年度は措置から契約へと社会福祉制度が変革されつつある過渡期であり、以下のようなマネジメント上の課題が明らかとなった。(1)措置制度の下で長期にわたって経営してきたため、介護実践においてコスト意識・独自性意識は極めて希薄であり、コストリーダーシップ・差別化戦略への移行は容易ではない。(2)介護サービスの質を向上させるために、従来から組織変革に手はつけられてきたが、措置制度の下では必ずしも利用者志向である必要はなく、したがってその多くは現場の抵抗のもと失敗している。(3)新卒未熟練介護者の比率が急激に高まっているため、介護サービスの質を維持することが困難になりつつある。 したがって、本年度の調査結果では、高齢者ケア施設は競争環境下におけるマネジメントを模索するまでには至っておらず、依然として旧制度下の諸問題に目を向けるにとどまっている。
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