平成11年度における研究実績の概要は以下の通りである。 1.企業収益の主要指標である売上高営業利益率と売上高経常利益率について、資本金規模別に1970(昭和45)年度以降、最近に至る約30年間の推移をみると、次のような検証結果が得られる。すなわち、大企業、中小企業別の売上高営業利益率、同経常利益率、いずれも1970年代前半(昭和40年代後半)においては、格差は比較的小さく推移していた。しかし、73(昭和48)年の第1次石油危機以降、ほぼ一貫して企業規模間格差は拡大ないし定着傾向で推移しており、企業構造は細かな階層化が進んできた。 2.こうした企業収益動向に加えて、付加価値生産性、労働分配率、売上高人件費比率、一社当たり従業員数、従業員一人当たり給与、同福利厚生費等の推移をみると、大企業における「雇用調整」傾向と中小企業における「資金調整」傾向がみられ、その結果として企業規模間賃金格差は拡大傾向となってきた。 3.こうした企業規模間賃金格差は補償賃金仮説、効率賃金仮説、能力差仮説、二重労働市場仮説等から考察されるが、日本の企業構造、労働力構造を考察すると、第一次労働市場、第二次労働市場の二重労働市場仮説のみならず、第一次労働市場においても階層性がみられることが重要な点として指摘できる。 4.次年度以降の研究課題は、企業規模間の経営業績格差、人件費負担能力格差が如何に労働市場構造と関連してきたか、さらにそれがどのようなメカニズムで企業の存立基盤となってきたか等を究明することである。
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