研究概要 |
本研究課題においては,わが国金融機関における不良債権処理をめぐる会計的研究,そのなかでもとくに時価評価制度にかんする問題を研究してきた。 本年度の研究実績は6つのテーマから成る。第1のテーマは時価評価により生じる評価損益が有する会計的含意である。その結論として,売却損益と評価損益との会計学的な相違点と類似点について考察し,その差は理論上無視できると考えられる。 第2のテーマはメインバンク・システムである。このシステムをモニタリングとガバナンスのための会計システムとして認識したうえで,そこにおける会計学的な論点の整理と考察とを展開している。 第3のテーマは会計処理とディスクロージャーとの関連性をめぐる問題である。ここでは,とくに金融機関の不良債権をめぐるディスクロージャー上の分類基準が貸倒引当金の計上という会計処理に影響をおよぼした事例を考察している。 第4のテーマは金融機関に関係する規制緩和と会計システムとの関連性である。有価証券の時価評価とその制度的背景をめぐる関連性を中心に検討している。金融市場等をめぐる規制が緩和されるほど,それに関係する会計情報や会計システムの充実が求められ,またそのことによって市場の効率性が向上する可能性がある。 第5のテーマは販売用不動産等に対する強制評価減の制度化をめぐる経済的影響である。この当時,こうした会計制度はいまだ制度化されていないにもかかわらず,多くの関係企業がそれを「先取り」した興味深い事例であった。 第6のテーマは持ち合い株式に対する時価評価である。いわゆる日本的経営の源泉のひとつとして,株式の相互持ち合いが挙げられることがある。こうした前提をもとにして,持ち合い株式の時価評価が日本的経営を崩壊あるいは変質させる問題について考察した。
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