本社費の配賦の問題を国際会計の問題として捉える時、国内レベルの問題とは異なった様々な制約のあることがわかる。親会社の本社費を海外子会社に負担させることは、国内の本部と事業部の間ほど自由にできないのである。これは、海外子会社の資金の本国への送金には制限があるためである。 拙稿(1999)では、オーバーヘッド・コストの回収の一つの方法である「コスト・シェアリング契約」について、米国内国歳入法の規定とOECDガイドラインの比較と解説を行った。これは、事前に契約を結んで、研究開発費などのコストをどのようにシェアするかを決めておく方法である。だが、具体的な回収方法はこの他にもある。親会社が子会社に対して行ったサービスに対する支払い、配当金、利子、ロイヤルティーによる回収がこれである。移転価格の操作が認められるケースもある。親会社の本社費を海外子会社に負担させるということと、海外の余剰資金を本国に送金することは、必ずしも同じ問題ではないが、両者には接点がある。そして、この問題を論じるには、国際税務の領域に踏み込まざるをえない。一例をあげれば、親会社が資金をすべて搬出して研究開発活動を行い、子会社に開発した技術などを供与してロイヤルティーを得る方法では課税される。これに対し、コスト・シェアリング契約を結び、子会社も投資して将来得られるベネフィットに応じて親会社と研究開発費を分担することにしておけば課税を免れることができる。管理会計では、コスト削減をやかましくいうにもかかわらず、二重課税など節税対策によるコストの引き下げという問題はほとんど論じられてこなかった。現実問題として、タックスプランニングの問題の一部として、どのような方法を組み合わせてコストを回収するかということが問題となる。現在執筆中の論文では、この点について論じている。 以上のような、きわめて国際的なレベルでの現実的な問題と対象的に、今、抽象的なレベルのモデル分析の可能性として、管理会計の変化のプロセスのモデルを考案中である。環境の変化により、管理会計システムはどのように変化していくのかという考察は、ある国の管理会計の使い方を異なる国へ移転した時に与える影響、実務として定着するかしないかを説明するためのモデルを構築する出発点になるように思える。このアイデアについて、3月の会計学会関西部会の統一論題において研究報告する。以上が本年度の成果である。
|