本研究の目的は、企業価値と関連する情報を投資家に提供する点で、日本の会計制度が、長期にわたって、インフラとして有効に機能していたかを検証することである。ここでは、企業価値の代理変数として株価を利用する。各変数は、規模の影響を取り除くために、前決算期末の株価でデーフレートしている。サンプルは、1999年末に、東京証券取引所、大阪証券取引所、名古屋証券取引所に上場している企業である。ただし、銀行、証券、保険業に属する企業は除かれている。決算期変更のあった期のデータも分析から除かれている。分析期間は1965年6月決算期から1999年12月決算期の35年間である。個別財務諸表情報と株式リターンの関連性は、自由度調整済決定係数でみると、おおよそ5%から20%のレンジにある。無形固定資産や研究開発費の増大傾向などの要因をコントロールしてもなお、その関連性は低下していると推察できる。連結財務諸表情報の有効性も個別財務諸表情報と同様な傾向を示してる。次に、1965-1999年の期間で、株式リターンを営業キャッシュフローで回帰した結果、自由度調整済決定係数は、平均0.016となった。平均的には、モデルから期待されたように、営業キャッシュフローは、株式リターンに対して統計的に有意な正の関連性を有している。キャッシュフローベースと発生主義ベースのリターンモデルで比較した結果、株式リターンの変動を説明する点で、営業キャッシュフローが当期利益よりも優っているとは結論づけられない。この結果は、プールされたサンプルでも同様である。平均して、利益情報は、キャッシュロー情報より株式リターンとの関連性が高い。ただし、利益が赤字の場合には、キャッシュフロー情報は利益情報と同程度の情報効果をもつことが明らかになった。
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