本研究が対象としているようなビジネスリスクの分析・評価では、マッピング手法をシステム化して利用することが有効である。 研究の過程では、VaR(バリュー・アット・リスク)の考え方を適用した定量的リスク分析も試みたが、十分な事故データベースが存在しないこと、および実務上の適用ではかえって実感とかけ離れたものとなること等から、その応用を断念するに至った。そこで、この2つの致命的な欠陥を克服するべく、リスクを座標上にマッピングする手法を試み、テンプレートを使った実務上のテストも行ってみた。ビジネスリスクのマッピングは、以下のような特徴を有する。 (1)ビジネスプロセスなど、領域ごとのテンプレートを重ね合わせることで、ビジネスリスクの相対的重要度を視覚的に認識することができる。 (2)既知のリスクだけでなく未知のリスクも把握できることから、「経営」という視点からするリスクの網羅的把握と重要度識別にとって簡便かつ有効に適用できる。 (3)マッピングに際しての主観性排除、およびリスク要因の変動の適時なフィードバックについては、リスク・セルフ・アセスメント(RSA:コントロール・セルフ・アセスメントとも言う)を利用することである程度解決できる。マッピング手法と自己評価手法との親和性は高い。 (4)固有リスクの識別と定性測定が行えるだけでなく、特定のコントロールがかけられた場合、「発生頻度」、あたは「影響の重大性」の2つの軸をまたがった変動の軌跡を捕まえることができ、個別的なリスク・コントロールの有効性評価だけでなく、リスク・コントロール水準の期間変動を把握することができる。
|