研究概要 |
3年間を通して、正標数の特異点の不変量の一つとしてのHilbert-Kunz重複度の研究を行った.その最初の成果は,Hilbert-Kunz重複度を用いて正則局所環の特徴付けを与えたことである。この結果は、多くの研究者が関連する研究を行うときの目安としたようである。次に、正標数の孤立特異点に付随する環論的不変量の研究として,最小特異点解消の双対グラフから定まるイデアルのHilbert-Kunz multiplicityを研究した。その結果、有理二重点の双対グラフから定まる整閉イデアルに対して,このHilbert-Kunz重複度を双対グラフの言葉で記述するアルゴリズムを得た。この証明には、代数幾何学的な道具(Riemann-Roch公式、McKay対応)と正標数の可換環論(tight closureの理論)の両方が生かされており、今後の発展が期待される。Hilbert-Kunz重複度の研究をブローアップ代数の研究に生かすために,ブローアップ代数のHilbert-Kunz重複度の計算も試みたが,これに関しては、残念ながら,完全なアルゴリズムを得ることはできなかった.部分的な成果として,ブローアップ代数のHilbert-Kunz重複度のベースになる局所環のHilbert-Kunz重複度と通常の重複度を用いた評価式を与えた.また、minimal Hilbert-Kunz重複度の概念をあらたに導入して、その計算方法を提供した。この不変量はGorenstein環の場合には、そのパラメータ系で生成されたイデアルとそれを含むsocleに対するHilbert-Kunz重複度の差として表現される。この不変量は、アメリカの研究者らが極大Cohen-Macaulay加群の構造という立場から別に導入した不変量と一致することも判明し、興味深い展開を見せている。 以上の研究の成果は、可換環論シンポジウムなどを通じて成果発表を行った。また、本研究の総合的な報告を平成13年度夏に大阪で開催された代数学シンポジウムにおいて行った。次年度以降は、正標数の特異点上のブローアップ代数の研究を推進する予定である。
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