研究概要 |
二次体上の正値二次形式をtheta級数を用いて調べるのに,Hilbert modular多様体の幾何的なデータが必要となる.Hilbert modular多様体はreal multiplicationを持つ主偏極アーベル多様体のmoduli空間ともなっている.その主偏極アーベル多様体が次元の低い主偏極アーベル多様体の直積となるときreducibleと言われ,reducibleな主偏極アーベル多様体に対応するHilbert modular多様体の点の集まりはreducible locusと言われる.現在までに行った研究により,二次体上のHilbert modular多様体においてreducible locusを完全に記述することが出来た.reducible locusは一番"普通"のtheta級数の零点となっており,今後役立つと思われる.また二次形式のtheta級数および一般のHilbert保型形式をreducible locusの各コンポーネントに制限することにより楕円保型形式が得られる.楕円保型形式の計算はHilbert保型形式の計算よりは容易であり,ここでの情報がもとのtheta級数,Hilbert保型形式を調べるのに役立つと思われる.reducible locusは二次体の整数環のある条件を満たすZ-基底を用いて記述される.二次体の判別式によりこれらは当然変わってくるが,判別式ごとに条件を満たす基底を計算するコンピュータプログラムを作成した.またreducible locusは何本かの代数曲線からなるのであるが,これらの種数の和と二次体上のL-関数の特殊値の関係も得られることが分かった.
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