研究概要 |
本研究の目的は,負曲率空間に作用する離散群の剛性・安定性を,負曲率空間の理想境界の幾何学および離散群のコホモロジーに注目して考察することであった.この目的に沿って以下のような成果が得られた. Γをn次元球面に作用するクライン群とする.Γが凸ココンパクトならばその不連続領域の商空間はコンパクトであるが,その逆は一般には正しくない.しかし,極限集合が小さければこの逆が成立することが予想されていた.井関裕靖(研究代表者)は,この予想に対して,極限集合のハウスドルフ次元が(n-2)/2以下である場合に肯定的な解答を与えた(論文は準備中).このことから,同じ仮定を満たすクライン群は構造安定であること等がわかる.また,凸ココンパクトなクライン群の最高次のl^1(Γ)係数のコホモロジーの非消滅を示した. 砂田利一は,有限生成群のco-growthと隣接作用素のスペクトルの関係を明らかにした. 中川泰宏は,Kahler軌道体の板東・Calabi・二木指標が正則自己同型群の羃単根基のLie環の上で消えることを示した. 芥川和雄は,双曲空間の幾何を理解する一つのアプローチとして,3次元双曲空間内の曲面のKenmotsu型表現公式を与えた.また平均曲率一定曲面に対しては,adjustingという概念を導入し,より適切なKenmotsu-Bryant型表現公式へ変形するメカニズムを解明した. 納谷信は,離散群の研究への応用を念頭に置き,複素および四元数双曲空間の理想境界の幾何構造の微分幾何学的な定式化を与えた(論文は準備中).
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