研究概要 |
曲率が下から,次元が上から押さえられたアレクサンドロフ空間全体の空間にハウスドルフ距離を与えた距離空間(以下モジュライ空間)をAとし,この上の上半連続関数の関数空間をIと表す.Iは不変量のなす空間と云える.距離空間の個数一定の点の順序付きの集合をネットと呼ぶ,これは空間を離散化したものと思うことができる.ネット全体はその空間の直積と見なせるので,各空間とそのネットの組み全体を考えると,A上のファイバー空間のようにみなせる.その各ネットに対してそれらの二点間の距離から定まる行列でユークリッド空間への写像を作ることでネットの距離構造を表現し,これを精密に行うことによりアレクサンドロフ空間のネットの空間を無限次元バナッハ空間に等長的に埋め込むことができる.この写像から距離構造の局所的なデータを取り出す別な(ユークリッド空間への)写像を導入した.このようものは一意的に決まるわけではないが,リーマン多様体のラプラシアンとの類似により離散ラプラシアンを定義し,ネットの個数が無限に発散するときの離散ラプラシアンのファイバー上の平均を取ることでその統計的な挙動を調べる手法を導入した.これにより(適当な意味で)離散ラプラシアン(の固有値・固有ベクトル)がネットの取り方によらないある極限に確率収束することを示し,さらにこの極限は桑江・町頭・塩谷によるアレクサンドロフ空間のラプラシアンとある意味で一致することを示した. 次に我々は離散ラプラシアンが有限次元の行列として表されることに注目し,異なる空間(とネット)の間でそれを比較することで,Aの新しい構造を定義することを試みた.比較する方法として,有限なパラメータを持つ分布の間の相対エントロピーがリーマン計量(フィシャー計量)を定めるという情報幾何の結果に着目した.まず,離散ラプラシアンを変形することでネットの定常マルコフ連鎖が得られることを示し,別の空間のネットのマルコフ連鎖の間の相対エントロピーを考察した.これは幾つかのパラメータとネットの選び方によって定まるので,平均と極限をとることで相対エントロピーの連続極限を構成した.
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