研究概要 |
本年度は標数pの素体F_pを係数とする空間の常コホモロジー群を双対スティーンロッド代数で表現される群スキームの表現空間であると見做すための理論的枠組みを構築することを目標に,次数付き位相ベクトル空間の基礎理論を整備を行ったが,その主要な部分を以下で述べる.TopVect_*を体K上の,部分空間の族を0の基本近傍系に持つような次数付き位相ベクトル空間と次数を保つ連続な線型写像のなす圏とする.このとき,TopVect_*の2つの対象V^*,W^*の完備テンサー積V^*【cross product】^^<^>W^*が考えられるが,V^*→V^*【cross product】^^<^>W^*で与えられる関手【cross product】^^<^>W^*:TopVect→TopVectは位相を考えない場合とは異なり,一般には右随伴関手を持たない.一方Hom^*(V^*,W^*)を次数nの部分が,次数をnだけ上げるV^*からW^*への連続な線型写像全体からなる次数付きベクトル空間とする.本年の研究成果の1つはHom^*(V^*,W^*)に「正しい」位相を定義することにより,【cross product】^^<^>W^*の右随伴関手に代わるものとして取り扱うことができることを示した点である.このことから,TopVect_*の射V^*【cross product】^^<^>W^*→Z^*が与えられればTopVect_*の射V^*→Hom^*(W^*,Z^*)が定まり,さらにある条件の下でHom^*(W^*,Z^*)はHom^*(W^*,K)【cross product】^^<^>Z^*に同型であることが示される.位相空間XのF_pを係数とする空間の常コホモロジー群H^*(X)やスティーンロッド代数Aは負の次数を持つように次数を付け直しておき,これらに適当な位相を定めることによりTopVect_*の対象と見做せるが,上記の事実により,AのH^*(X)ヘの作用A【cross product】H^*(X)→H^*(X)から双対スティーンロッド代数A_*=Hom^*(A,F_p)のH^*(X)ヘの「余作用」H^*(X)→A_*【cross product】^^<^>H^*(X)(Milnor coaction)が得られる.これにより,H^*(X)はA_*表現される群スキームの表現空間と見做せ,AのH^*(X)ヘの作用の非安定性条件もA_*の余作用の言葉に翻訳できて,Lannesらによる非安定加群の理論を表現論の言葉での定式化が可能になる.
|