研究概要 |
今年度の研究は,代数的場の量子論における超選択則理論を自発的に破れた対称性へ拡張する上で必要な数学的道具立てを整えることに主な努力を注いだ。対称性が破れない場合に非可換代数上のendomorphismsから成るC_*-categoryを用いて定式化されたコンパクト群に関する淡中・Krein双対性が重要な役割を演じたのに対して,破れのある場合にはこれを等質空間に拡張することが必要である。これについて,スイスの数学者Prof.S.Maumaryとの研究討論を通じてhomotopy-fiber categoryに基づく新たな手法の有効性を明らかにし,その方向での研究を継続中である。更に,超選択則理論の構成法を代数的場の量子論でのdual netに適用して得られる破れのない部分的対称性を持つ代数を拡張して,破れた対称性とその下での場の代数を上記の双対性に基づいて再構成するには,Goldstoneモード・秩序変数・表現代数の中心等を巡る数学的構造の解明が重要となる。この目的には,昨年5月スイスのBorelSeminar2000で行なった連続講演(I.Ojima,"Thermal Instability of Supersymmetry I,II",at Unioversitat Bern,Switzerland)での理論的考察が重要な役割を演ずる。以上二点を踏まえて,本年4-5月Prof.Maumaryの訪日,6-8月当方の同教授訪問の折に行う研究討論を通じて,上述の課題の核心部分を仕上げる予定である。 また,代数的場の量子論における局所温度状態の一般的定式化に関する研究では,ドイツの数理物理学者Profs.Buchholz,Roosとの第1共著論文を夏までに完成する予定である。その他,1月下旬にはイタリアのトレントで開催された量子確率論のワークショップに招かれて,超伝導におけるJosophson効果に関する講演を行う機会を得,関連する研究テーマを持つイタリア・ドイツ・フランス・ノルウェーの研究者と有益な研究討論を行った。
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