アノマリーに関する摂動論又は経路積分による方法と演算子形式による方法との比較について、昨年に引き続き研究を進めた。前者の方法は場の方程式を一般に破るT^*積(共変的時間順序積)に基づいて定式化されているため、理論の対称性を表すカレントの保存則も一般に成立しないことを示した。カレントの保存則の破れが純粋にT^*積に基づく見掛け上のものに過ぎなければ問題とはならないが、そうでないとアノマリーの存在を意味するため、経路積分ではアノマリーの存否に関わる混乱が生じ得ることを指摘した。例として、2次元量子重力において経路積分法により一般にその存在が信じられてきたFaddeev-Popovゴースト数カレントアノマリーは、ローレンツ的時空上の理論に関する限り存在しないことを示し、これまでの誤った認識を正した。以上の成果は、平成12年12月の京都大学基礎物理学研究所における研究集会「場の量子論の基礎的諸問題と応用」で発表した。 T^*積は本来非可換量である場の演算子に対してある種の対称化された積を定義するものであり、その期待値であるグリーン関数の生成汎関数が経路積分に他ならない。非可換量の対称化された積を扱うため、その生成汎関数の変数(いわゆる源関数)は可換量になり、これが量子論を記述する経路積分が可換量だけで議論できる本質的な理由であることを明らかにした。一方、演算子形式で重要な役割を演じるワイトマン関数は、場の演算子の単純な積の期待値であり、必ずしも対称な関数ではない。このような一般の多変数関数に対する生成汎関数を議論するためには非可換多項式環の導入が不可欠であるが、その具体的定式化をクンツ環を用いて構成している。
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