研究概要 |
本研究課題の最終年度にあたる今年度は、課題をまとめる年にふさわしい豊富な知見と将来性を得た。それらは主に、乗法作用素と合成作用素の一般化である荷重合成作用素の関数空間上における挙動について、である.(1)12年1月台湾における国際会議において発表した、Hardy空間H^∞とBloch空間の間の荷重合成作用素の有界性、compact性の特徴付けについての結果を論文化して、投稿した。13年7月発刊予定である。(2)前回の研究課題で大野が得たLipschitz空間における結果の拡張として,K.Stroethoff(米Montana大)、R.Zhao(米Virgina大)らと共同で研究してきたBloch-type空間における荷重合成作用素の有界性,compact性の特徴付けについて、共同論文として投稿し、近刊の予定となった。そして、引き続き彼等と、small Bloch-type空間における合成作用素の特徴付けも試みた。この際に使用した手法がVandermonde型の行列式に関連するという、基礎数学的にも興味深い結果を導いている。(3)Hilbert空間であるHardy空間H^2とBloch空間の間の荷重合成作用素の有界性、compact性の特徴付けにおいて、意外な知見が見られた。それは、この特徴付けが予てよりの念願である、H^2における合成作用素の差のcompact問題(Sundberg-Shapiro問題)に関連するということであるが、最近Bourdon-Shapiroがさらに、この特徴付けを仲介して、Sundberg-Shapiro問題がhypercyclicityに関係するという「ミステリアス」な知見を述べている。このことによっても、Hardy空間とBloch空間の間の荷重合成作用素の問題の重要性が高まっているといえる。これらの結果は、13年1月の米ニューオリンズにおけるアメリカ数学会年会において研究発表をした。しかし,定義域であるHardy空間はさらに再生核をもつような解析関数空間に拡張できることが分かり、その論文化を現在行っている。(3)de Branges-Rovnyak空間について、本来の定義である合成作用素による構成を試みたが、これは先駆的なことであり、手法その他の開発が望まれる。乗法作用素、不変部分空間の特徴付けが目的だが、de Branges-Rovnyak空間は今現在研究が始まったばかりのものであり、この設定で考えることは内外の研究者に研究の枠を広げさせる効果を生み出すものとなろう。
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