研究概要 |
研究課題「微分方程式の解の漸近理論」における4つの研究目的のうち、高階常微分方程式の複素WKB法の研究に関しては、2階微分方程式にたいするFedoryuk理論の拡張を3階微分方程式のBNR方程式に対して試み、また、積分で定義される関数の漸近展開の研究では、BNR方程式の解を表すラプラス積分について鞍部点法をもちいて研究を行った。その結果、BNR方程式に関して、Berk, Nevines and Robertsが論文:New Stokes Lines in WKB theory(J.of Mathematical Physics,26(1982))において初めて取り上げてから20年を経て、遂にその解の漸近展開を全複素平面上で構成し、かつ接続係数を求めることが出来た。 この成果は近い将来論文として発表する予定である。 合流型WKB法、及び偏微分方程式の解の漸近理論では顕著な成果は得られず、今後の研究課題である。 我々の研究には2つのブレークスルーがあった。1つは6枚のz-複素平面からなる特性根のリーマン面を1対1,連続的に1枚のw-複素平面に写す写像を発見したことにより、すべてのストークス曲線やストークス領域が目に見える形で1枚の紙面上に表現出来たのである。これをもとにして解の漸近展開の存在領域である許容領域(admissible domains)や基本解の存在領域である特性領域(canonical domains)等を求めることが出来た。又、この際、2階方程式では現れなかった影領域(shadow zone)の存在が明らかとなった。 2つ目は、動く鞍部点法の適用である。複素s-平面上のラプラス積分で書かれたBNR方程式の解に鞍部点法を適用すると複素WKB法と同じ漸近展開がえられる。z-平面の許容領域をs-平面に写像し動く鞍部点法を用いることにより許容領域で様に成りたつ漸近展開が得られる。さらにラプラス積分に対してコーシーの積分定理を適用することにより異なった許容領域における解の間の線形関係:接続公式が得られる。
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