研究概要 |
本年度は2年計画の最終年度にあたる.本計画ではシンプレクティック多様体を一般化したポアソン多様体に対して厳密量子化の存在を考察する.ポアソン多様体に対する(形式的)変形量子化の存在は1997年M.Kontsevichにより示されたが,解析的変形理論である厳密量子化の存在に関する一般論は確立されていない. 以下の結果が得られた.コペンハーゲン大学のR.Nestミュンスター大学のI.Peter両氏との共同研究で得られた閉シンプレクティック多様体に対する厳密量子化の存在定理を精密化し,存在のメカニズム,本質が明確化された.特に,Nest氏との共同研究において得られた非可換リーマン面の構成で用いられたアイデアを,一般のシンプレクティック多様体に対する厳密量子化の構成に適用することに成功し,Nest,Peter両氏との共同研究において当初得られた構成法を改良することができ,存在のメカニズムが非常に鮮明になった.又,非可換リーマン面の構成と共に構成のキーとなったB.Fedosovによる(形式的)変形量子化の構成法への理解が深まった.Kontsevichによるポアソン多様体の変形量子化の存在証明よりはるかに簡明な証明が最近現れたこともあり,ポアソン多様体に対する厳密量子化の存在証明に見通しが立った.これらの方法により得られる厳密量子化に現れるC^*環の構造,性質,例えばK理論を解析することは甚だ困難である.具体的なポアソン多様体に対しては,そこに現れるC^*環が具体的であり解析可能である厳密量子化を構成することが望ましい.ニューヨーク州立大学のC.L.Olsen氏との共同研究において,最も基本的なポアソン多様体である2次元球面を考察し,両極で退化するタイプのポアソン構造に対して,厳密量子化を構成し,そこに現れるC^*環の構造を解析することに成功した.これらのC^*環は新しい「非可換球面」であり、今後非可換幾何学において重要な役割を果たすことが期待される.
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