本研究は「リーマン多様体上のどのような滑らかな関数が、初めに与えられた計量の共形計量のスカラー曲率として実現され得るか?」と言う問題を定式化した、いわゆるスカラー曲率の方程式についての、完備リーマン多様体の場合への取り組みである。 この研究目的に沿い、平成11年度は、完備リーマン多様体上においてこれまでに得られている膨大な諸結果、主としてユークリッド空間または双曲空間を含むような、曲率に関する一定の制限の下での、距離関数のラプラシアンの比較定理を用いたものを中心とする諸結果の整理検討に着手する一方で、完備リーマン多様体の幾何的構造の研究と言うより広い立場で問題を捉えて行くために、スカラー曲率の方程式において見られる諸現象と多くの共通点を持つ他の変分問題、具体的には捩れ弾性曲線(キルヒホッフ弾性棒)、調和写像(p-調和写像あるいはそのさらなる一般化であるF-調和写像をも含めて)、アインシュタイン・ケーラー計量(トーリック多様体上の板東・カラビ・二木指標)等の最新の研究について、情報交換を目的とする研究交流を行った。中でも調和写像については、コンパクト・リーマン多様体上のスカラー曲率の方程式の、その閉部分集合を特異点集合として持つ解が、完備リーマン多様体の場合と密接な関係にあることを鑑みて、また完備リーマン多様体上でさらにその内に特異点を持つ解のことも視座に入れて、エネルギー最小化写像や弱発展調和写像における特異点集合の取り扱いに重点をおいた比較検討を行った。
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