本研究は、研究対象として擬軌道追跡性を満たす写像族という十分大きなクラスを選びその分岐現象を解明しようというものであった。平成10年度までの研究により擬軌道追跡性を満たす力学系の内点(C^1位相)に属する力学系の幾何学的特徴付けが完了しおり、平成11年度には(擬軌道追跡性よりも強い)擬軌道リプシッツ追跡性を満たす微分力学系(全体の境界に属する力学系)について、その安定多様体と不安定多様体について幾何学的特徴付けが可能であることが判明した。 平成12年度は、上記結果を利用して擬軌道リプシッツ追跡性を満たす力学系についてその分岐現象の解明を進めてきたが、明白な進展は見られなかった。しかし、依然として擬軌道リプシッツ追跡性の研究方法及び研究成果は、今後、本研究を進めて行く上で重要な糸口となると思われる。 また、平成12年度においては、最近証明されたConnecting Lemmaにより上記の研究方法が擬軌道追跡性を満たすベクトル場に対しても応用可能であることが判明した。一般にベクトル場には特異点が存在することから微分同相写像の場合と全く同様に進められるわけではない。しかし、研究代表者他による研究により(擬軌道追跡性よりも強い)位相安定性を満たすベクトル場はC^1開条件のもとでAxiom Aと強横断性条件を満たすことが証明され、位相安定性を満たすベクトル場が「構造安定なベクトル場」として特徴付けされた。この結果は、本研究から得られた大きな成果のひとつと言える。近い将来、そこでの証明法を改良することにより擬軌道追跡性を満たすベクトル場についても同様な特徴付けが得られるものと確信しているが、これは今後の重要な研究課題である。
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