研究概要 |
1.多向性熱弾性体モデルにおけるMaxwell状態の安定性:Maxwell状態を,定常的な相境界で境界の両側でエントロピーが等しいものと定義する.このMaxwell状態を固定して,その近傍においてRiemann問題を考えるとき,相境界において駆動条件を課せば,一方の相の熱力学的変数の値を他方の値に対応させる遷移写像が一意的に存在することを示した.しかし,それにもかかわらず,適当な条件の下ではRiemann問題の解が一意的に定まらない例を与えた.この場合,相転移後の弾性体の温度上昇・降下を指定すれば一意的な解が取り出せるが,これは弾性体の内部構造(熱伝導・粘性等)を加味したモデルの考察が必要であろう.いずれにせよ,多向性弾性体は等温弾性体と異なり,Maxwell状態は不安定であることが得られた. 2.Riemann問題の解の幾何学的な一意性定理:一般の2×2-保存則系について,境界に孤立臍点を許容する単純双曲型領域における大域的な一意性定理を得た.一意性の条件は,特性方向場とHugoniot曲線の中心と曲線上の点を結ぶ有向線分が共に,1-方向と2-方向とで分離することである.この条件は,70年代にT.-P.Liu氏により得られた結果の一般化となっている.また,定理を証明する過程において,Liu氏が結果のみを述べて証明の細部が未発表の部分について証明を与えた. 3.多重双曲型保存則系の不連続解の許容条件:流速密度が状態変数の2次式で表される2×2-双曲型保存則系で,孤立した臍点が現れる場合について,Hugoniot曲線の幾何学的な考察を行い,Lax-エントロピー条件が成立する範囲を確定した.とくに,構造がもっとも複雑になるSchaeffer-Shearerの第1分類について,従来は数値解析でのみ考察されていた部分の数学解析的な証明を与えた.ここでは,Hugoniot曲線が有理曲線となることを本質的に用いた.さらに,正準エントロピーが減衰する条件を得て,単純双曲系と同様に,Lax-エントロピー条件とは異なることを示した.したがって,正準エントロピーの条件のみでは一意的な解が取り出せず,相境界と同様に駆動条件が必要であることが分かった.
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