研究概要 |
宇宙初期に形成された星やQSO等が起源と考えられるUV背景放射は,物質のイオン化や加熱などを通じて銀河以下のスケールの天体の収縮を阻害する。よって,クェーサー吸収線系の形成に大きな影響を与える。そこで我々は,UV光子の輻射輸送,水素分子の化学反応を取り入れた一次元球対称流体計算によって,UV背景放射下で収縮する天体中でのガスの冷却過程について詳細に調べた。この結果,UV光子に抗して水素分子による冷却が可能となる臨界密度が得られるとともに,それを特徴づけている物理過程が明らかになった。まず,UV背景放射がQSO起源で,スペクトルが指数-1のべき関数型の場合,ガスの温度は主に光加熱と放射冷却のバランスによって制御される。このため,10^4K以下の温度への冷却が可能になるかどうかは,光加熱を担う高エネルギー(>13.6eV)光子が,中性水素によってどれだけ遮蔽されるかによって本質的に決まる。一方,UV背景放射が大質量星起源で,黒体輻射型のスペクトルを持つ場合は,水素分子の光解離が効くため,ガスの冷却には,光解離を担う低エネルギー(11.3-13.6eV)光子に対する水素分子の自己遮蔽が重要になる。これらの計算によって,水素分子冷却が可能な質量スケールは,赤方偏移3以下の宇宙では10^9M_【of sun】以上となることが明らかになった。 銀河,および第一世代天体の形成過程は,紫外輻射場の浸透の程度によって大きく左右される。銀河形成の問題では,紫外線背景輻射場がどの程度原始銀河雲に浸透し,ガスを加熱するのかが重要である。この浸透の程度の違いが銀河の形態分化に中心的役割を果たすという可能性が指摘されている(Susa & Umemura 2000a ; Susa & Umemura 2000b)。より正確な結論を得るためには,現実的な3次元の輻射流体的シミュレーションを行う必要がある。われわれはこのような数値シミュレーションを行うために,輻射流体力学をSPH法に基づいて取り扱う計算コードを開発した。このコードはSPH粒子のNeighbour listをつないでいくことによって光学的厚さを計算する。また,電離面の近傍では光学的厚さの計算を注意深く行うことによって電離波面の伝播を正しく追うことができる。このコードを用いて背景紫外線輻射場中の銀河形成のシミュレーションを行った結果,UV背景輻射場が銀河形成に大きな影響を与えることがわかった。これは,クェーサー吸収線系の減衰ライマンアルファ吸収線系の起源と深く関係する。
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