研究概要 |
クェーサースペクトルに見られるLyα吸収線系は,宇宙の局所的高密度領域を見ているという考えが注目されてきた。しかし,これまでの解析では,非一様宇宙の中での電離光子の伝播は正確に扱われてこなかった。我々は,非一様宇宙における電離光子の伝播とそれに伴う宇宙再電離過程を調べるために,3次元輻射輸送計算を行った。この計算結果を用い,観測されているスペクトルと同等のクェーサー吸収線系をシミュレートし,観測と直接比較するによって宇宙の再電離過程についての知見を得た。まず,Lyα吸収線系の解析によって,いわゆるGunn-Peterson効果は,低分散分光観測をした場合の吸収線のoverlapping効果としてしか現れず,波長分解能1万以上の観測では,Continum Depression(D_A)が宇宙の電離状態を表す良い指標になることがわかった。観測されている100近いクェーサースペクトルから,D_Aはz〜4を境に,赤方偏移の増加と共に急激に1に近づくため,宇宙再電離の時期がこの辺りであることが示唆される。しかし,シミュレーションとの比較の結果,宇宙再電離の時期は,この急激な増加の時期には対応しておらず,z_<reion>>7でなければならないことがわかった。さらに,宇宙背景紫外線強度がz>4で急激に弱くなっていなければならないことも明らかになった。一方で,Lyαは高密度宇宙では減衰が強く起りすぎるため,高赤方偏移の電離状態を細かく調べるのには不向きであることも判明した。例えば宇宙が99%以上電離された状態にあっても,LyαのContinum DepressionはD_A〜1になってしまう。よって,z>4の宇宙の物質状態を詳しく知るには,(1)輝線が観測でき,(2)Lyαよりオパシティが小さく,(3)ダストによる減光が小さい,という3条件を満たす輻射性遷移を用いるのが理想的であると言える。3番目の条件は,高赤方偏移天体がダストで覆われている可能性が高いことを考慮したものである。この3条件に最も適合したものはHαである。実際,Hα吸収線系をシミュレートした結果,HαのContinum Depressionは,宇宙の再電離史を良くトレースできることがわかった。4<z<10では,Hα吸収線系の波長は,すばるIRCSでの観測が可能な波長帯に入る。
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