本年度は主として赤色巨星における新しい分子形成領域が存在することの観測的確立、及び、M型矮星・褐色矮星の統一雲モデルの構築をすすめた。 1.赤色巨星の外層に新しい分子形成領域が存在することを最近公開されたISOアーカイバルデータにより確認し、その基本的特性を明らかにした。特に、早期M型巨星には従来その光球に水蒸気は存在しないと考えられていたが、ISOアーカイバルデータに含まれているM0III-M4III型の星の高分解能スペクトルにはH_2O v_2バンドが6μm領域に吸収として観測され、水の存在が確定した。さらにK5型巨星アルデバランにも弱いH_2O v_2バンドが観測され、全く予想外であるがK型巨星にすでに水が存在することが初めて明らかにされた。これらのH_2Oバンドの励起温度は1500K以上、柱密度は(0.2-2.0)×10^<18>cm^<-2>の程度であることが示された。これらは、明らかに高温の彩層や低温の恒星風とは異なる新しい分子形成領域により形成されたものと考えられる。このような新しい分子形成領域の観測的検証の方法として、スペースよりの赤外干渉計による方法を議論した。 2.M型矮星や褐色矮星におけるダスト雲の形成を考慮した新しいモデルを構築した。ダストが外層大気に存在し輝線スペクトルとして容易に観測される赤色巨星・超巨星とは対照的に、M型矮星・褐色矮星ではダストが大気中に存在する。M型矮星・褐色矮星のようにほぼ静水圧平衡にある大気にダストが定常的に存在できるのは、これらのダストが微小であるため十分成長しないでガスと詳細平衡にある場合に限るが、これが可能な温度範囲はダストの凝固温度(T_<cond>)とダストが成長をはじめる限界温度(T_<cr>)の間である。この範囲外ではダストは大きくなり過ぎ、分離・沈殿してしまう。即ち、M型矮星・褐色矮星の大気中にはダストは一様に存在するのではなく、雲の形で存在する。ダスト雲がこのようにT_<cr> < T < T_<cond>の温度領域に限定されるが、ダストの凝固温度は比較的高くT_<cond>【approximately equal】2000K程度なので、このダスト雲は大気の奥深くにのみ存在する。このモデルによりM型矮星・褐色矮星の色及びスペクトルを統一的に説明することができることを示した。
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