1.昨年度には、ISOアーカイブデータのSWS高分解能サンプル(R【approximately equal】1600)から、K型巨星Aldebaran及び数個の早期M型巨星(M0III-M3.5III)に水分子が存在すると言う予想外の結果を示した。今年度は、ISOアーカイブデータの多数のSWS低分解能サンプル(R【approximately equal】200)を併せ用いて、この結果をさらに多数のサンプルに拡張した。その結果、6ミクロン領域のH_2Oのν_2基準振動からもとめた水分子の柱密度は、K5III-M5IIIでは光球モデルの予測値よりも著しく大きく、光球起源では説明できないことが多数のサンプルで確認された。逆に晩期M型巨星では水分子の柱密度は光球モデルの予測値よりも小さく、M8IIIまでを含めても5×10^<18>cm^<-2>程度が上限であり、また晩期M型巨星でもほとんど水の吸収を示さないものもある。これらのことは6ミクロン領域ですでに分子光球による輝線成分が、光球起源の吸収成分と相殺している可能性を示唆する。これらの結果が光球起源では説明できないことは明らかであり、外層における新しい分子形成領域-分子光球-の存在が多数のサンプルにより実証された。 2.昨年度に、簡単な熱力学的考察によるダスト雲を採り入れた光球モデルを提唱した。このモデルでは、ダスト雲は褐色矮星の有効温度の如何にかかわらず常にその凝固温度(T_<cond>【approximately equal】2000K)と成長・分離・沈殿をはじめる限界温度(T_<cr>【approximately equal】1800K)の間の範囲でのみ存在する。従ってダスト雲は有効温度の比較的高いL型倭星では観測可能な大気中に位置するが、有効温度の低いT型倭星では大気の奥深くに移行する。この原理により、最近改定された太陽の炭素・酸素組成による非灰色光球モデルの新しいグリドを構築した。この結果を用いて、最近の視差測定による色-等級図でL型からT型倭星への遷移にあたってJ-Kなどの赤外色指数は急激に青くなり、同時にM_Jなどは暗くなるよりはむしろ明るくなることが、定量的に再現できることを示した。即ち、我々の光球モデルにより、褐色倭星の進化モデルはようやく色-等級図による古典的方法により初めて検証された。
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