ISOの初期段階で、従来のモデルでは全く予想されていなかった水蒸気のスペクトルを早期M型巨星、超巨星に見出し、さらにK型巨星Aldebaran (α Tau ; K5III)を含むM0III以降の全てのM型巨星に水が普遍的に存在することを明らかにした。さらに、その励起温度は1000K以上と比較的高いことを示した。また、早期M型超巨星μCep (M21a)や晩期M型巨星では水は輝線としても観測され、その解析から水蒸気スペクトルは光学的に厚く拡がった、"分子光球"とでも呼ぶべき外層分子雲によるものであることを結論した。従来から知られている光球、高温の彩層、及び低温の膨張ダスト・分子流のほかに、従来の恒星外層大気の理論では全く考慮されていなかったこのような分子光球の存在を明らかにした。 M型矮星については、2.2-1.2μmにわたるスペクトルの系統的観測をISOPHTS及びISOCAM-CVFにより行なった。褐色矮星は、近く打ち上げが予定されているASTRO-F(ISAS)などの赤外線観測衛星によりようやく観測可能となる。これらのスペクトルの解析の基礎を確立する目的で、本研究では大気構造の基礎的研究を進めた。見掛け上非常に異なる特性を示すL型及びT型の2タイプを統一的に説明するモデル-Unified Clody Model(UCM)を提案した。このモデルでは、ダスト雲は褐色矮星の有効温度の如何にかかわらず常にその凝固温度(T_<cond> 【approximately equal】 2000K)と成長・分離・沈殿をはじめる限界温度(T_<cr> 【approximately equal】1800K)の間の範囲でのみ存在し、この範囲外ではダストは大きくなり過ぎ、分離・沈殿してしまう。このような単一のモデルにより、M型、L型からT型矮星にいたる赤外色指数、SED、及びスペクトルを始めて統一的に説明できることを示した。このことは、また、我々のダスト雲形成モデルの観測的検証と考えることができ、今後発見されるであろう太陽系外巨大惑星などをふくめて、平衡大気におけるダスト雲形成に応用できるであろう。
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