昨年度までの研究の継続として、次の2つをテーマとする研究を行った。 1)核子の相対論的クォーク模型による形状因子、構造関数の研究。 2)光円錐上におけるカイラル対称性とその自発的破れの記述法の研究 このうち、1)は東海大学理学部のベンツ助教授、理化学研究所放射線研究室の石井博士、国立台潟大学の峯尾博士との共同研究で、クォーク間相互作用として、スピン1重項にあたるスカラーダイクォーク間だけでなく、スピン3重項の軸性ベクトルダイクォーク間にも相互作用を導入した場合の、核子の形状因子(磁気モーメン、軸性ベクトル結合定数など)への影響を調べた。それ程大きな影響はないことがわかったが、スカラーダイクォーク間だけに相互作用がある場合と比較して、実験値との一致を改良する方向であった。この成果は、Nucl. Phys. Aに出版されている。 一方1)はドイツ、エルランゲン大学のレンツ教授、ティース教授、東京大学大学院総合文化研究科の太田教授との共同研究を継続して行った。光円錐上で、フェルミオンの自由度が半分になることに伴うカイラル変換そのものの不定性やカイラル対称性が自発的に破れている相(南部ゴールドストーン相)での対称性の痕跡をワード・高橋の恒等式を用いて調べた。通常のカイラル変換に基くワード・高橋の恒等式は、光円錐上では、南部・コールドストーン粒子であるパイオンの寄与か支配的になる運動学的点は存在しないが、上述変換そのものの不定性を用いて、修正した変換に基くワード・高橋の恒等式では、パイオンの寄与が支配的なる場合があることがわかり、光円錐上でのパイオンの波動関数も正しく与えられた。これらの考察は、QCDの低エネルギー有効理論と考えられる南部・ジョナ・ラジニオ(NJL)模型を用いたものであるが、その一般化を目指し、この共同研究をさらに発展させたいと考えている。
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