カイラル対称性に基づくバリオンとその励起状態の分類とそれらの性質への反映を調べることがこの研究の中心テーマである。今年度はその中で、N^*(1535)共鳴状態のカイラル対称性を決めるために必要な実験の提唱、QCD和則を用いたメソン-バリオン結合定数の研究、ハイペロンやハイパー核の弱崩壊におけるバリオン励起状態の役割などを中心に研究を進めてきた。主な成果を以下にまとめる。 (1)N^*(1535)は基底状態である核子Nの負パリティ励起状態であるが、N^*とNの関係をカイラル対称性に基づいて調べた一連の仕事を行っている。その結果、NとN^*が互いにミラーバリオンとして振舞う場合に注目し、軸性ベクトル流結合定数の符号が互いに逆になることを指摘した。これを実験的に確かめるには、エータ、パイ生成実験が適当であることを指摘し、その反応断面積、角分布などにミラーとしての特徴が現れることを示した。この結果にそった実験計画が進行中である。 (2)パイオン、エータなどの中間子と8重項バリオンの結合定数をQCD和則を用いて解析し、F/D比は相関関数のDirac構造に敏感であることを示し、もっとも適当なDirac構造がテンソル型であることを明らかにした。SU(3)対称性の元で求めたF/D比は0.6-0.8で、これまでの現象論的解析とよく一致している。 (3)シグマなどのバリオン励起状態のハイペロンの弱崩壊への寄与を調べた。特に、ハイパー核内での崩壊ではシグマの仮想混合が重要であることを指摘し、軽いハイパー核の崩壊確率を直接クォーク機構と中間子交換を組み合せたモデルで計算し、実験データとよく合うことを示した。
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