外場として静的な電磁場を加えたときのハドロンの性質の変化についての研究を行ない、以下の成果を挙げた。 1核子のスピン依存偏極率を、非摂動的方法の一つであるLarge N_c展開を用いて研究した。重バリオンカイラル摂動論(HBChPT)においては、核子のスピン依存偏極率に対するnext to leading order(NLO)の寄与は非常に大きく、展開の信頼性に対して疑問がもたれて来たが、Large N_c展開の方法では、HBChPTのNLOで大きな寄与を与える項やnext-to-next leading orderで初めて現れる項が、leading orderで自然に取り込まれていることを示した。 2格子ゲージ理論を用いて、電磁場中でのクォーク対凝縮およびバリオンの質量の変化を求め、量子色力学の第一原理から電磁的偏極率を求めるという方向の研究を行なった。一定磁場の場合、格子に対する周期的境界条件は磁場の強さを量子化する結果となり、弱い磁場を課すことが出来ない。これを避けるために、格子端で磁場の強さが空間的に大きく変化するように設定しなければならない。このような計算をするための予備的計算を実際に格子上で行ない、本格的な計算を行なうために必要な情報を収集した。 3虚時間空間において行なわれる格子色力学の計算結果から、実際の観測量と密接に関連した実時間量であるスペクトル関数をベイズ推測の原理から求める方法を確立し、その方法によって得られるスペクトル関数の一意性を証明し、また誤差解析の方法も確立した。また、核子と同じ量子数を持つチャンネルのスペクトル関数を正および負パリティー状態へ分離する方法を、場の理論の一般論に基づいて定式化した。これらの問題について、総説を執筆した。
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