研究概要 |
本年度は,研究計画に従って,まず球対称系の解析を行った.具体的な研究の内容および成果は次の通りである. i)昨年,質量ゼロのスカラ場と重力場からなる球対称系について宇宙検閲仮が成り立つことがChristodoulouにより証明された.小玉は,特性初期値問題の有効性を調べるためにこの証明を詳細に検討し,この証明において解のなめらかさのクラスを有界変動関数に広げることが本質的であること,およびこのクラスでは証明が不完全であることを明らかにした. ii)小玉は,Tolman-Bondiモデルを特性初期値問題の視点から解析し,中心に現れるフォーカス型の特異点と同様,殻交差型特異点も普遍的な分数べき型のスケール不変な構造を持つことを見いだした.現在,このような特異点の構造が一般の球対称系でも現れるかどうか,またそのメカニズムは何かを解析中である. iii)中尾は原田知広,井口英雄と協力して,Tolman-Bondi時空のフォーカス型中心特異点の摂動に対する安定性を調べ,特異点によって生じるCauchyホライズンが奇パリティの摂動に対しては安定であるが,偶パリティの摂動はCauchyホライズン上で発散することを示した.これは,対称性を持たない系で宇宙検閲仮説が成り立つことを示唆する興味深い結果である.
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