ヘリウム核において100MeV以上の結合エネルギーで深く束縛されたケイオン状態が存在することを、理論的に初めて示した。この状態では、強い相互作用による崩壊の主チャンネルが閉じるため、ケイオンが核内で準安定となる。この研究の特徴は、わずか3〜4核子からなる核に注目したことにある。通常、ケイオンの深い束縛は、重い核でしかも高密度で起こると思われ、高エネルギー重イオン反応による探索が考えられていた。ヘリウム核で成功した理由は、ケイオンと核子の相互作用はアイソスピン依存性が極めて大きく、少数核子系でアイソスピンの平均化を避けて強い引力が働く状態が実現したためである。 ケイオンの束縛状態は、以下のように測定できる。最も有望なものは、ヘリウム3とケイオンの束縛伏態で、結合エネルギー108MeV、幅20MeVであると計算されている。ケイオンをヘリウム4の原子軌道に止めて核に吸収させると、その深い束縛状態が生成され余分の中性子が放出される。そのときの生成分岐比は2%であり、実験的に検出可能である。また、ベリリウムなどの軽い核でも、ケイオン自らが高密度状態を作り出し深く束縛される。このことは、上記の実験が低温高密度核媒質中のハドロンの性質を調べる新しい方法の第一歩となることを意味している。
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