本研究の目的は、量子論における物理系の大域的構造(トポロジー)の役割を系統的に調べ、その場の量子論としての応用を図ることにある。このため、大域的構造の物理的意義が顕著な素粒子論の模型と、さらにその基盤をなすと考えられる特異性を持つ一次元量子系を研究した。成果は以下の通りである。 1)大域的構造を持つ場の理論としての低エネルギーQCD実効理論 Faddeev-Niemiらによれば、低エネルギーにおいてQCDはある種のトポロジカルな項をもつ非線形シグマ模型で記述される。本研究ではこのシナリオに基づき、元のゲージ場がインスタントン配位のときに、非線形シグマ模型においてどのような対応する配位が出現するかを調べ、またその物理的意義を吟味した。その結果、低エネルギー実効理論では元のインスタントン数に対応する電荷をもったモノポール配位が必ず出現し、4次元時空ではこれがループ構造を成していることを明らかにした。また、そのループにはU(1)ゲージ場が附随し、そのループ内の磁束が量子化されることを証明した。またさらに、Hopf数をもつソリトン配位の現れる可能性(グルーボールの候補)も考察し、そのHopf数をエネルギーの関係についても考察を進めた。 2)特異性を持つ一次元量子系と再帰現象 大域的構造(トポロジー)に起因する量子現象の理解は、場の理論における量子異常との関連から推察されるように、量子系における特異性の処理の問題の解明と不可分である。本研究では、その典型である一次元系の量子点状特異点(点状相互作用)を研究した。その結果、点状相互作用は一般にパラメーター群U(2)で記述され、そのエネルギースペクトル構造はメビウスの輪と同相であることを発見した。さらに特異点の(束縛エネルギー、干渉効果や散乱位相などの)物理的特性を調べることにより、双対性や対称性の破れ、超対称性やBerry位相の出現などの、場の理論における大域的量子現象が、量子特異点の下で発生することを明らかにした。一方、ポテンシャルの発散のために特異性を持つ場合についても合わせて研究した。特にポテンシャル発散が逆2乗項による調和振動子系は再帰現象(caustics)を示し、そこでの量子トンネル現象によって、これが量子論的な分配器として使える可能性を示した。この現象の場の理論における対応現象を見つけることは、今後の興味深い課題であると考えられる。
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