イオンまたは陽子シンクロトロンでは通常、イオン源、線形加速器、シンクロトロンそれぞれにおいて異なる加速周波数または時間構造を取っている。イオン源で発生するビームは数百マイクロ秒の時間巾を持っているが、これはシンクロトロンの周回周波数に比べると非常に長いため、線形加速器によって加速され、シンクロトロンに入射された段階では時間構造の無いリング一周に渡って分布するビームとなる。このようなビームを捕獲、加速するには断熱捕獲と呼ばれる手法が用いられるが、ビームの空間電荷による影響や捕獲のために使える時間の制約からロス無く捕獲および加速することは容易ではない。このため、大強度の陽子加速器ではイオン源から出たビームをシンクロトロンの加速高周波あわせて細断(チョップ)し、入射する手法が用いられている。これまでに実用化されたチョッパーは主にビームの一部を横方向に蹴るものであるが、これはビームのハロー形成の一因にもなる。今回我々が開発したチョッパはビームを進行方向に加減速するもので、横方向のビームハローを生じないと期待できる。イオン源とRFQ加速器の間にこれを置くことにより、イオンビームの運動エネルギーは周期的に10%程度の変換を受け、このエネルギー変換を受けた部分は、RFQ内で加速されずに失われる。これにより、エネルギー変換の時間構造を適切に選ぶことで、求められるチョッピングが実現できるものである。我々は金属磁性体をコアとするビームチョッパーと必要なチョッピング電圧を得るための電源系を強力なFETスイッチを用いて製作した。これらを用いてビームがチョップされるかどうかの実験を行い、RFQの出口でビームが約1MHzの周期でチョップされていることが確認出来た。更に、このチョップされたビームをシンクロトロンに入射し、断熱捕獲を用いずに、捕獲加速することができた。またこのチョッパを用いて、入射ビームの縦方向のエミッタンスを制御することができ、加速器研究のために有用な道具でもあることが判った。
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